世界疼痛デー

慢性疼痛が終糸病(アーノルド・キアリI型症候群、脊髄空洞症、脊柱側弯症)に及ぼす影響 2026年10月17日は「世界疼痛デー」です。2004年に国際疼痛学会(IASP)と世界保健機関(WHO)が関与する取り組みとして始まったこの活動は、痛みが人々の生活に及ぼす影響について、社会的な認識を高めることを目的としています。 痛みとは? 痛みとは、実際の組織損傷、または組織損傷の可能性に関連する、不快な感覚的・情動的体験です。痛みは身体の異常を知らせる重要な役割を果たしますが、その感じ方や強さは、身体的な状態だけでなく、心理的・社会的な要因によっても影響を受けます。 痛みの種類 痛みは、次のように分類できます。 急性疼痛:侵害受容器が有害な刺激を検知した際に、神経系が迅速に反応して生じる痛みです。 慢性疼痛:中枢神経系において痛みの信号が過剰に増幅され、当初の刺激と痛みの反応との間に直接的な関係がなくなる場合に生じる痛みです。 神経頭蓋脊柱症候群および終糸病に関連する痛み 当研究所が対象とする後天性の神経頭蓋脊柱症候群や先天性の終糸病に関連する病態では、日常生活に大きな支障をきたすほどの強い痛みがみられることがあります。 関連する疾患には、従来の医学では原因が不明とされるものが多く、以下が含まれます。 アーノルド・キアリI型症候群 特発性脊柱側弯症および特発性脊髄空洞症 線維筋痛症 複数の椎間板症 尾骨脱臼 これらの病態では、頭痛、頸部痛、背部痛、腰痛、四肢の痛みなどが生じ、日常生活動作や身体活動が制限されることがあります。 治療と生活の質の向上 慢性疼痛は、患者さんの身体的・精神的な負担を増大させ、自立した生活や日常活動、生活の質に影響を及ぼすことがあります。当研究所では、独自の治療法である「終糸システム」による治療後の経過を観察し、臨床症状や痛みの変化について報告しています。当研究所の報告によれば、治療後、多くの患者さんにおいて臨床症状の改善が認められ、痛みを伴う症状についても改善が報告されています。 臨床成績:疼痛軽減における有効性 ミゲル・B・ロヨ=サルバドール医師が率いる当研究所の医療チームは、終糸システムによる治療に関する臨床データを蓄積しています。 当研究所が報告した、終糸病、特発性脊髄空洞症、アーノルド・キアリI型症候群と診断された患者94人を対象とする分析(図1)では、終糸切断術から1年後の診察時に、以下のような疼痛症状の改善が報告されています。 頭痛:86%の症例で改善 頸部痛:76%の症例で改善 腰仙部痛(腰の下部の痛み):68%の症例で改善 背部痛(背中の中央部の痛み): 79%の症例で改善 図1:終糸病および特発性脊髄空洞症の患者94人を対象とした、終糸切断術後1年の診察時における症状の変化を示したグラフ。 中枢神経系における最新の研究 現在、科学文献や国際的な医学研究では、慢性疼痛に伴う生理学的変化や、痛みの情報が神経系でどのように処理されるかについて研究が進められています。 慢性疼痛では、末梢神経や中枢神経系における痛みの処理が変化し、痛みに対する感受性が高まることがあります。このような変化には、侵害受容性の情報の伝達や、中枢神経系における痛みの調節機構など、複数のメカニズムが関与しています。 また、当研究所の研究開発・イノベーション部門では、終糸病および神経頭蓋脊柱症候群を研究対象としています。患者さんの生活の質の向上を目指し、これらの病態に関連するとされる慢性疼痛や神経障害性疼痛の軽減に向けた治療戦略の開発と研究に取り組んでいます。 終糸システムによる治療後のケア:疼痛の軽減から理学療法・リハビリテーションへ 外科的治療や薬物療法は、患者さんの状態に応じて組み合わせることで、痛みや、それに伴う身体機能の制限を軽減できる場合があります。治療後は、患者さんの回復状況に応じて、専門家の指導のもとで理学療法やリハビリテーション、適切な身体活動への復帰を進めることが重要です。 当研究所では、終糸システムによる治療後のプログラムを、持続的な脊髄牽引によって生じるとされる機能障害への対応と、身体機能の回復を支援することを目的として実施しています。 当研究所の見解では、終糸による異常な緊張状態を解放することを目的とした治療によって、先天性または後天性の要因に対処し、小脳扁桃の下垂、脊髄空洞症、脊柱側弯症などに関連する病態や疼痛の改善を目指しています。
2026年世界メンタルヘルスデーと神経疾患

メンタルヘルスは基本的人権 2026年の世界メンタルヘルスデーにあたり、メンタルヘルスは基本的人権の一つであり、そのケアは包括的な医療の一部として考えることが重要であることを改めてお伝えします。 この国際的な記念日は、メンタルヘルスの重要性について社会の理解を深めるとともに、精神的な健康上の問題や精神疾患に対する偏見を減らすことを目的としています。 当研究所で診療している神経疾患および脳神経外科疾患は、神経系異常を基盤とする疾患です。これらはメンタルヘルスの問題とは異なりますが、症状や疾患の経過、日常生活への影響によっては、患者さんの心理的・精神的な状態にも影響を及ぼす可能性があります。 そのため、アーノルド・キアリI型症候群、脊髄空洞症、特発性側弯症、終糸病に関連するその他の疾患を抱える患者さんの中には、気分の変化、不安、認知機能に関する困難、あるいは生活の質(QOL)の変化を経験する方もいます。 終糸病と生活の質 慢性の神経疾患が及ぼす影響は、必ずしも身体的な症状だけにとどまりません。 痛み、身体機能の制限、睡眠障害、疲労、特定の活動を行うことの困難、自立性の低下などは、健康状態に対する患者さん自身の認識や生活の質に影響を及ぼす可能性があります。 そのため、患者さんを包括的に診ることが重要です。神経学的な徴候や症状だけでなく、患者さん一人ひとりの個人的、心理的、社会的な状況についても考慮する必要があります。 2025年12月に開催された「第5回国際神経科学・精神医学ウェビナー(5th International Webinar on Neuroscience and Psychiatry)」で発表された科学ポスターでは、当研究所創設者のロヨ医師率いる医療チームが、終糸病が患者さんの生活の質に及ぼす影響について分析しました。 この研究では、対象となった患者さんの一部において、気分、特定の認知機能、性機能に関する変化が認められたことが報告されています。 詳しくは、以下の記事をご覧ください。 終糸病患者の生活の質に関する記事 アーノルド・キアリI型症候群および脊髄空洞症患者におけるメンタルヘルス アーノルド・キアリI型症候群や脊髄空洞症の患者さんは、症状の原因が明らかになるまでに、長い診断プロセスを経験することがあります。この間、原因の特定が難しい、あるいは周囲に説明することが難しい神経症状が続くことで、不確実さや不安、苛立ちなどを感じることがあります。 また、適切な検査によって診断を受ける前に、自身の症状を軽視されたり、心理的な原因によるものと考えられたりしたと感じる患者さんもいます。 そのため、患者さんの話に耳を傾け、症状を適切に評価したうえで鑑別診断を行うことが重要です。それによって、神経学的な原因による症状なのか、心理的な要因が関係しているのか、あるいはその他の原因によるものなのかを適切に検討することができます。 症状を認識し、患者さんの訴えを丁寧に受け止めることも、患者さんを中心とした医療の重要な要素です。 包括的な医療の重要性 身体的な健康とメンタルヘルスは密接に関係しています。神経疾患によって運動機能が低下したり、持続的な痛みが生じたり、睡眠が妨げられたり、自立した生活が制限されたりすると、それが患者さんの心理状態や社会生活、人間関係にも影響を及ぼす可能性があります。 そのため、終糸病、アーノルド・キアリI型症候群、脊髄空洞症、脊柱側弯症の患者さんに対する医療では、必要に応じて、神経学的・機能的な側面だけでなく、心理的、認知的、社会的な側面についても考慮することが重要です。 当研究所独自の治療計画「終糸システム」では、患者さん一人ひとりの臨床的特徴や、疾患が生活のさまざまな領域に及ぼす影響を考慮し、個別化された医療という観点を取り入れています。 心理的なサポートや心の健康を支えるための取り組みは、慢性疾患に対する包括的なアプローチの重要な要素となり得ます。 適切な時期に必要な治療やサポートを受けることは、患者さんが疾患に伴う制限に対処し、自身の健康状態をより適切に理解しながら、生活の質を維持することにつながる可能性があります。 メンタルヘルスを大切にすることは、健康を大切にすること 2026年の世界メンタルヘルスデーにあたり、健康のあらゆる側面に目を向けることの重要性を改めてお伝えします。 メンタルヘルスを大切にするということは、自分自身の状態やニーズに耳を傾け、必要なときには助けを求め、疾患が身体的・心理的な状態に影響を及ぼした際には、医療専門家による適切なサポートを受けることでもあります。 身体の健康だけでなく、心の健康にも目を向けながら、自分自身を大切にしましょう。
2026年9月28日:アーノルド・キアリI型症候群の国際デー

毎年9月28日は、アーノルド・キアリI型症候群の国際デーです。この日は、この神経疾患に対する社会的認知を高め、科学的研究を促進するとともに、患者さんやそのご家族を支援することを目的としています。 当研究所およびキアリ&脊髄空洞症&脊柱側弯症基金は、アーノルド・キアリI型症候群および関連疾患の診断、治療、研究に取り組む医療専門家、患者団体、各種機関とともに、この国際的な取り組みに参加しています。 アーノルド・キアリI型症候群は、キアリ奇形I型とも呼ばれ、脊髄に他の奇形を伴わず、小脳扁桃が大後頭孔を通って下垂することを解剖学的特徴とする疾患です。その発症原因については、現在も研究が続けられています。 この記念日の目的は明確です。疾患への理解を深め、研究を促進し、患者さんを支援することです。 アーノルド・キアリI型症候群に対する理解を深める 多くの人々は、アーノルド・キアリI型症候群について十分に知らず、この疾患が脳のみに影響するものだと考えている場合があります。 しかし、この疾患の症状や臨床的な現れ方は、患者さんによって大きく異なります。無症状のまま経過し、別の理由で受けたMRI検査によって、偶然、小脳扁桃の下垂が発見される患者さんもいます。 一方で、生活の質を大きく低下させる症状を引き起こし、場合によっては重大な障害につながることもあります。 症状は神経系の様々な領域に影響を及ぼす可能性があり、以下のようなものがあります。 頭痛、頸部痛 めまい、回転性めまい 四肢の筋力低下 感覚障害、神経障害性疼痛 平衡障害 嚥下障害 睡眠時無呼吸 不眠症 記憶力や集中力の低下 発話障害 背部痛、腰痛 患者さんによって症状や経過は異なるため、診断および治療は、それぞれの状態に応じて個別に検討する必要があります。 アーノルド・キアリI型症候群に関する当研究所の研究 研究は、当研究所の活動における重要な柱の一つです。 キアリ&脊髄空洞症&脊柱側弯症基金の支援のもと、当研究所の研究部門では、終糸病と、アーノルド・キアリI型症候群、脊髄空洞症、その他の神経疾患との関連について研究を行っています。 この研究では、牽引理論が提唱されています。この理論では、先天的な異常により過度に緊張した終糸が、中枢神経系全体に持続的な牽引力を及ぼす可能性があり、それが小脳扁桃の下垂や特徴的な症状の出現に関与する可能性があると考えられています。 この考え方に基づき、「終糸システム®」という低侵襲神経外科治療法が開発されました。この治療では、病的な牽引を解除し、疾患の進行を抑制することを目的として、終糸の切断術が行われます。 当研究所の臨床経験によれば、この治療法は、アーノルド・キアリI型症候群の治療に従来用いられてきた大後頭孔減圧術や、その他の外科的治療法と比較して、神経外科手術に伴うリスクを大幅に軽減することができるとされています。 当研究所のミゲル=B・ロヨ=サルバドール医師(Dr. Miguel B. Royo Salvador)の医療チームは、この病態生理学的仮説について研究を継続し、科学論文を発表することで、この疾患に関する知識の発展に貢献しています。 アーノルド・キアリI型症候群の患者さんを支援するために キアリ&脊髄空洞症&脊柱側弯症基金では、患者さんの生活の向上を目指し、以下の活動を行っています。 科学的情報の普及 医療従事者の教育および患者さんへの情報提供 研究活動の支援 終糸病に関連する疾患を持つ方々への社会的支援 多くの国では、公的医療制度ではカバーされていない高度な専門治療へのアクセスが困難な患者さんがいます。その一例が、終糸システム®による治療です。 キアリ&脊髄空洞症&脊柱側弯症基金では、皆さまからのご寄付を通じて、経済的な理由から治療を受けることが困難な患者さんに対し、当研究所で専門的な治療を受けるための経済的支援を行っています。 この支援活動にご協力いただき、より多くの患者さんが専門的な治療を受けられるよう支援したい方は、キアリ&脊髄空洞症&脊柱側弯症基金へのご寄付をご検討ください https://chiarifoundationbcn.com/donar/. アーノルド・キアリI型症候群国際デー:疾患への理解を共に広げましょう アーノルド・キアリI型症候群国際デーは、現在も十分に知られておらず、診断に至っていない患者さんがいるこの疾患について、改めて社会的な関心を高める機会です。 科学的研究、正確な情報発信、そして医療専門家、研究機関、患者さんの協力は、診断の向上、新たな治療法の開発、そして患者さんの生活の質の改善に不可欠です。 この9月28日、当研究所およびキアリ&脊髄空洞症&脊柱側弯症基金は、アーノルド・キアリI型症候群に影響を受けるすべての方々のために、研究、専門的医療、そして患者支援への取り組みを改めて継続していくことを表明します。
アーノルド・キアリI型症候群および脊髄空洞症の小児患者に対する終糸システム®適用から9年後の良好な術後経過

症例番号:18155 診断名:アーノルド・キアリI型症候群(小脳扁桃下垂)、脊髄空洞症、歯突起後屈、複数の椎間板症、神経頭蓋脊柱症候群、終糸病 終糸切断手術施行日:2017年2月21日 手術時年齢:11歳 術後経過観察日:2026年7月24日 経過観察時年齢:21歳 9年間の経過観察における臨床経過 症例番号18155の患者さん(本人の希望により氏名は非公開)は、11歳の時にロヨ医師率いるチームによって、終糸システム®を用いた終糸切断手術を受けました。手術から9年後、術後の経過を評価するため、当研究所で経過観察を受けました。 治療前には、さまざまな程度の頭痛があり、身体的な負荷やバルサルバ法(いきみ動作)によって誘発されていました。頭痛は頻繁に生じ、主に後頭部および前頭部に認められ、吐き気、光過敏、音過敏、前向性記憶障害を伴っていました。 また、身体的な負荷の後に肩の痛みが生じるほか、ときどき上肢全体の力が抜けるような感覚や、歩行時に生じる左鼠径部の痛みも訴えていました。さらに、下肢の突然の脱力発作や、手足の熱感、腫れたような感覚、かゆみを伴う症状もあり、これらは手術前の数か月間にみられていました。 術後数年間に行われた複数回の経過観察では、症状にいくらかの変動が認められたものの、臨床経過は良好でした。現在では、症状が大幅に軽減し、その中には何年も前から消失している症状もあるとのことです。 神経学的所見の改善 術後の経過観察時に実施された神経学的検査では、それまで認められていた客観的な神経学的所見の大部分について、完全または部分的な改善が確認されました。 具体的には、眼振、下肢に対するミンガツィーニ徴候およびバレー徴候、腱反射、足底反射、腹壁反射などの改善が認められました。 手術前後のMRI画像 2016年に撮影された術前のMRI画像では、患者さんの臨床像に関連するとされる複数の所見が認められました(図1、図2)。 主な所見は以下のとおりです。 頸椎の生理的前弯および胸椎の生理的後弯の消失 小脳扁桃下垂:環椎後弓下縁の中央付近から軸椎後弓上縁まで 歯突起後屈 椎間板症:C3-C4、C4-C5、C5-C6、C6-C7、T8-T9 第2頸髄における脊髄空洞症、ならびに頸髄および胸髄における虚血・浮腫(第10胸髄まで確認) 図1 症例番号18155の頭蓋頸椎MRI画像:2016年の術前画像(左)と2026年の術後画像(右)。小脳扁桃の下垂と術後の上昇が示されています。 図2 症例番号18155の頭蓋頸椎および胸椎MRI画像:2016年の術前画像(左)と2026年の術後画像(右)。第2頸髄に認められた脊髄空洞症と、術後の経過観察時におけるその消失が示されています。 終糸切断手術から9年後の画像所見 終糸システム®を用いた終糸切断手術から9年後の2026年に実施されたMRI画像では、術前画像と比較して変化が認められました。 主な所見は以下のとおりです。 脊髄空洞症の消失 小脳扁桃の上昇 その他の所見については、術前画像と比較して大きな変化は認められない 術前・術後のMRI画像を比較することで、9年間の経過観察期間における小脳扁桃および脊髄空洞の変化を確認することができました。 治療結果に対する患者本人の評価 治療結果についての主観的な評価として、患者さんは症状の80%が改善したと述べており、この手術は非常に有用であったと回答しています。 また、当時はご両親が決定した治療でしたが、患者さんご本人は、もし再び選択する機会があれば同じ手術を選ぶと述べ、終糸システム®を用いた終糸切断手術を推奨しています。 長期的に見られる良好な術後経過 本症例では、小児期にアーノルド・キアリI型症候群および特発性脊髄空洞症と診断され、終糸システム®を用いた終糸切断手術を受けた患者さんについて、9年間にわたり臨床的および画像上の改善が維持された経過が示されています。 患者さんが21歳の時に行われた経過観察では、症状の大幅な軽減、複数の客観的な神経学的所見の完全または部分的な回復、およびMRI画像上の変化が認められました。特に、小脳扁桃の上昇と、術前に認められていた脊髄空洞の消失が確認されました。 本症例は、小児期に治療を受けたアーノルド・キアリI型症候群および特発性脊髄空洞症の患者さんにおいて、終糸システム®を用いた終糸切断手術後の長期的な経過を観察した一例です。患者さんご本人による治療結果の主観的評価も良好で、QOL(生活の質)の改善が報告された症例です。
アーノルド・キアリⅠ型症候群と特発性脊髄空洞症におけるスポーツ:推奨される運動と避けるべき運動

小脳扁桃下垂(アーノルド・キアリⅠ型症候群)や特発性脊髄空洞症と診断された患者さんから、診察時によく寄せられる質問の一つに、「どのような運動が適していて、どのようなスポーツは避けるべきか」というものがあります。 この問いに適切に答えるためには、一人ひとりの状態を個別に評価することが不可欠です。脳神経外科医は、年齢、病歴、症状の程度、日常生活での自立度、さらに保存的治療か手術治療かといった治療歴などを総合的に考慮し、それぞれの患者さんに適した運動について判断します。 アーノルド・キアリⅠ型症候群患者に運動制限はありますか。 近年の医学文献では、運動に対する考え方は変化してきています。 一部の研究では、「一般的に、キアリ奇形Ⅰ型患者に対して一律に運動を制限する必要はない。ただし、患者本人および家族と十分に話し合い、スポーツに伴う潜在的なリスクについて十分理解してもらうことが重要である。」(1)と報告されています。 一方で、スポーツ、特に接触を伴う競技には外傷のリスクが伴うため、多くの神経内科医や脳神経外科医は、患者さんの症状や画像所見に応じて運動制限を設けています。 症状のある患者さん:脳幹圧迫、小脳扁桃下垂、脳脊髄液(髄液)の循環障害を伴うアーノルド・キアリⅠ型症候群では、接触を伴うスポーツや衝突の危険性が高い競技、重量挙げなど強いバルサルバ動作(いきみ)を伴う運動は、一般的に避けることが推奨されます。特に、咳やくしゃみ、前かがみの姿勢、力んだ際に悪化する拍動性頭痛や強い頸部痛がある場合には注意が必要です。 症状のない患者さん:MRI検査で偶然発見された無症候性(偶発所見)のアーノルド・キアリⅠ型症候群では、必要な検査を行い、脳神経外科医が安全と判断した場合には、運動制限を必要としないこともあります。(2) 運動を直ちに中止すべき警告症状 運動を継続できるかどうかは、症状の経過によって判断します。 運動中または運動後に次のような症状が現れた場合には、直ちに運動を中止し、医師へ相談してください。 咳や力んだ際に生じる頭痛:頭痛はアーノルド・キアリⅠ型症候群で最も多くみられる症状です。頭痛の頻度が増えたり、痛みが強くなったり、これまで効果があった鎮痛薬が効きにくくなった場合には、一時的に運動を中止することが推奨されます。 背中、首、手足の痛み:首や背中、四肢の痛みが悪化した場合には、運動を中止し、症状の原因を確認する必要があります。 脊髄空洞症による症状:運動中に、しびれ、感覚障害、手足の脱力などの症状が悪化した場合には、脊髄への負担を増やさないために運動強度を下げるか、中止することが重要です。 安全で推奨される運動はありますか。 脳神経外科の専門医は、脊柱への負担を軽減し、姿勢を改善するとともに、体幹や頸部の筋肉を安全に強化できる運動を推奨しています。 軽い水泳:特に背泳ぎが推奨されます。また、クロールなどを行う場合にはシュノーケルを使用することで、呼吸時に首を大きく反らしたり、過度に回旋したりすることなく泳ぐことができます。 水中運動:水の浮力により脊椎への負担が軽減されるため、安全に全身運動を行うことができます。 定期的なウォーキング:クッション性の高い靴を着用し、無理のない速度で定期的に歩くことが推奨されます。 エアロバイク・平坦な道での自転車走行:エアロバイクや平坦な道での自転車走行は、有酸素運動として適しています。ただし、凹凸の多い路面や急な下り坂など、転倒や衝撃のリスクが高い環境は避けてください。 メディカルヨガ・臨床ピラティス:姿勢の改善や脊椎の安定性向上に役立ちます。ただし、逆立ちの姿勢や首・腰を大きくひねる動作、過度に頸部を反らす動作は避ける必要があります。 避けたほうがいいスポーツはありますか 一般的に、急激な頸部の動きや頭部への衝撃、急停止・急加速を伴うスポーツ、あるいは頭蓋内圧を急激に上昇させるバルサルバ動作(いきみ)を伴う運動は避けることが推奨されます。 重量挙げ・高重量トレーニング:ウェイトリフティングや高重量での筋力トレーニング、クロスフィットなどの高強度トレーニング。 衝突の危険がある球技:サッカー、バスケットボール、ラグビー、ハンドボールなど。 接触を伴うスポーツ・格闘技:柔道、ボクシング、空手など。 強く衝撃を伴う運動:激しいランニング、パデル、トランポリン、スカイダイビング、バンジージャンプなど。 長時間の息止めを伴うスポーツ:潜水など、長時間の息止めによって頭蓋内圧や髄液循環へ影響を及ぼす可能性がある競技。 手術後は運動制限が緩和されますか。 手術を受けた患者さんでは、病気によるリスクが軽減されることは多いものの、すべての運動制限が解除されるわけではありません。 大後頭孔減圧術後の運動制限 大後頭孔減圧術後のスポーツ復帰については、現在のところ国際的に統一されたガイドラインはありません。 『Journal of Athletic Training』に掲載された研究では、「キアリⅠ型奇形のアスリート、特に減圧術後に競技へ復帰する患者の管理については統一された見解は存在しない。スポーツ復帰後に症状が再発する可能性を十分理解したうえで、主治医や脳神経外科医と連携し、適切な管理計画を立てることが重要である。」(3)と報告されています。 そのため、大後頭孔減圧術後は、まずリハビリテーション科医による評価を受け、個々の状態に応じた理学療法を開始したうえで、段階的にスポーツへ復帰することが推奨されます。 終糸切断手術後の運動制限 終糸病の診断基準に基づき、アーノルド・キアリⅠ型症候群および特発性脊髄空洞症と診断され、終糸切断術を受けた患者さんでは、術後の運動復帰に対する考え方が異なります。 一般的には、手術創が治癒するまでの約1か月間は安静を保ち、その後は専門医の判断のもと、必要に応じて理学療法を併用しながら、段階的かつ安全にスポーツを再開することが可能です。 まとめ アーノルド・キアリⅠ型症候群や特発性脊髄空洞症の患者さんにとって、適切な運動は、子どもから成人まで生活の質(QOL)の向上に大きく役立ちます。 ウォーキングや水中運動などの低〜中強度の有酸素運動は、筋力や心肺機能の維持・向上、身体のこわばりの軽減、さらには精神的な健康の維持にも有益であると考えられています。 一方で、運動の種類や強度は、症状の有無や病状、治療内容によって適切な範囲が異なります。そのため、自己判断で運動を再開・継続するのではなく、主治医や脳神経外科医と相談しながら、一人ひとりの状態に合わせた運動を安全に行うことが最も重要です。 参考文献 Spencer, R., & Leach, P.(2017). Asymptomatic Chiari Type I malformation: […]
夏のアーノルド・キアリI型症候群と脊髄空洞症の症状、リスクとその対策

夏になると、スペインをはじめ世界各地で気温が高くなります。このような高温環境は、さまざまな神経疾患の症状を悪化させる可能性があります。当研究所でも、終糸病、アーノルド・キアリI型症候群、特発性脊髄空洞症、神経頭蓋脊柱症候群の患者さんから、猛暑時には症状や体調不良が強くなるとの報告を多くいただいております。 暑さはなぜ神経症状を悪化させるのですか。 一般的に、高温環境は既存の神経疾患の症状を悪化させることがあります。極端な暑さは脳の機能にも影響を及ぼし、特に神経疾患や精神疾患のある方、小児、高齢者、慢性疾患を有する方では、その影響を受けやすいとされています。 人体には、体温を約36.7~37℃の範囲に保つ体温調節機構が備わっています。気温が高くなると、体温調節を担う脳の視床下部はより活発に働く必要があります。しかし、暑さが体の代償能力を超えると、この調節機構が十分に機能しなくなり、体温の維持が困難になることがあります。 また、暑熱ストレスは神経伝達にも影響を及ぼし、見当識障害や意識の混乱、さらには意識消失を引き起こすことがあるほか、既存の神経症状を増悪させる可能性があります。 暑さとアーノルド・キアリⅠ型症候群 アーノルド・キアリⅠ型症候群では、頭痛は最も代表的な症状の一つです。 猛暑時には、高温によって脳血管が拡張しやすくなるため、頭痛発作の頻度が増えたり、拍動性の頭痛が強くなったりする可能性があり、日常生活への支障がさらに大きくなることがあります。 また、暑さは睡眠の質を低下させ、新たに不眠を引き起こしたり、もともとの不眠を悪化させたりすることがあります。睡眠不足は片頭痛発作の誘因の一つとして知られており、症状の悪循環につながることもあります。 さらに、暑熱ストレスによる神経機能への影響は、終糸病の患者さんにみられることのある記憶力や集中力の低下、気分の変調などの症状をさらに悪化させる可能性があります。 高温と特発性脊髄空洞症 特発性脊髄空洞症の患者さんでは、高温環境によって、慢性的な疲労感、疼痛、感覚異常、四肢の筋力低下、歩行・運動機能の低下、温覚・痛覚の異常などの症状が悪化することがあります。 また、高温は疲労感を増強させるだけでなく、感覚障害を悪化させ、多量の発汗や蒸し暑い環境と相まって、歩行能力や運動機能、さらには日常生活での自立性を低下させる可能性があります。 夏の注意点 暑さに弱い方々と同様に、アーノルド・キアリⅠ型症候群や特発性脊髄空洞症の患者さんには、夏の間、次のような対策が推奨されます。 こまめに水分を補給する。 日中の最も暑い時間帯の外出や直射日光を避ける。 できるだけ冷房の効いた環境で過ごす。 また、終糸病に関連する疾患をお持ちの患者さんは、外出や移動の際には、できるだけ一人で行動せず、ご家族や同行者と一緒に行動することをお勧めします。万が一、安全で涼しい環境から離れた場所で症状が急激に悪化した場合にも、一人にならないよう事前に計画を立てておくと安心です。 終糸システム®を適用して終糸切断手術を受けた術後 当研究所では、ミゲル・ロヨ医師率いる医療チームが終糸システム®を適用し、これまでに2500名以上の神経頭蓋脊柱症候群の患者さんに終糸切断手術を実施してきました。その結果、多くの患者さんに症状の改善が認められ、その中には体温調節機能や血液循環の改善を実感された方も含まれています。 また、頭痛、不眠、認知機能や気分の障害、慢性疲労、筋力低下、疼痛、運動障害などの症状が、治療後に軽減または消失することがあります。その結果、高温環境に対する耐性が向上したと感じられる患者さんもいらっしゃいます。 バルセロナでお待ちしております この夏、初診や定期診察のために当研究所へお越しになる患者さんは、基本的な暑さ対策を実践していただくことで、暑い季節でも安心して専門医療を受けていただけます。 また、診察の合間には、バルセロナの街並みや海岸、美しい地中海の景色も、より快適にお楽しみいただけることでしょう。
2026年 世界脳の日:終糸病が脳の健康に及ぼす影響

毎年7月22日は、世界脳の日に制定されており、世界神経学連合が2014年から推進している取り組みです。その目的は、脳の重要性、その機能、脳の健康に影響を及ぼす要因、そして正常な機能を損なう可能性のある神経疾患についての認識を高めることにあります。 当研究所は主に、アーノルド・キアリI型症候群、特発性脊髄空洞症、特発性側弯症など、脳幹・脊髄・脊柱に関連する疾患の研究と治療に取り組んでおりますが、この世界脳の日に際し、上記疾患の共通原因である終糸病が、脳を含む中枢神経系全体に影響を及ぼす可能性があることを強調したいと思います。 終糸病は脳にどのような影響を及ぼしますか。 終糸が神経系に異常な牽引力を及ぼすことにより、脳の構造や機能に変化が生じる可能性があります。その結果、終糸病と診断された多くの患者さんには、脳領域に起因すると考えられる神経症状が認められます。 アーノルド・キアリI型患者にみられる頭痛と片頭痛 小脳扁桃下垂を伴うアーノルド・キアリI型症候群の患者さんに最もよくみられる症状は、頭痛です。 主な特徴は次のとおりです。 後頭部、後頭頸部、または前頭部の痛み 吐き気や嘔吐を伴う片頭痛 神経学的前兆の有無はさまざま また、頭痛には以下の症状を伴うことがあります。 眼窩後部痛 羞明(光に対する過敏症) 音過敏(騒音に対する過敏症) かすみ目 耳鳴り 難聴 言語障害(言葉が出にくい、発音しにくいなど) 頭痛の程度は軽度から日常生活に支障をきたす重度までさまざまで、持続時間も数時間から2~3日間に及ぶことがあります。薬物療法で改善する場合もありますが、一般的な治療薬に反応しにくい症例も存在します。 発症頻度も個人差があり、月1回程度から毎週、あるいは2週間ごとに起こることがあります。 終糸病に関連する睡眠障害 終糸病の患者さんに、生活の質に大きな影響を及ぼす睡眠障害がみられることがあります。代表的なものは以下のとおりです。 入眠困難 中途覚醒 睡眠時無呼吸 過眠症(比較的少数) 質の高い睡眠は、脳の健康維持と認知機能の正常な働きに不可欠な要素です。 メンタルヘルス・記憶・認知機能 さまざまな研究や臨床経験から、終糸病、とくにアーノルド・キアリI型症候群を伴う場合には、神経心理学的機能にも影響を及ぼす可能性が示唆されています。 報告されている症状には以下が含まれます。 気分障害 認知機能障害 注意力・集中力の低下 記憶障害(特に前向性健忘) 言語障害 これらの症状は、患者さんの日常生活や自立した生活能力に大きな影響を及ぼすことがあります。 終糸病に関連する頭蓋頸椎移行部病変 頭蓋底および頭蓋頸椎移行部には、アーノルド・キアリI型症候群にしばしば合併するさまざまな解剖学的異常が認められます。これらは、発育過程において終糸による力学的牽引が加わることによる終糸病の現れである可能性があります。 代表的な病変は以下のとおりです。 頭蓋底陥入症 扁平頭蓋底 歯突起後屈 上記病変は神経症状の発症に関与する可能性があり、専門医による適切な評価が必要です。 脳の健康を守ることの重要性 人間の脳は、身体の中で最も複雑な器官であり、中枢神経系の中核を担っています。脳内に存在する数百億個もの神経細胞は、運動、記憶、言語、感情、学習、さらには生命維持に不可欠な臓器の働きまで、さまざまな重要な機能を調節しています。 そのため、脳の健康を維持することは、あらゆる年齢において非常に重要です。 脳を守るためには、次のような生活習慣が推奨されています。 定期的に運動を行う。 栄養バランスの良い食事を心がける。 知的活動を積極的に行い、脳を刺激する。 十分な睡眠時間を確保する。 ストレスをできるだけ軽減する。 神経症状がみられる場合には、定期的に医療機関で診察を受ける。 早期診断と専門医療の重要性 持続する頭痛、睡眠障害、認知機能の低下、言語障害、その他の神経症状が現れた場合には、正確な診断を受け、それぞれの患者に最適な治療方針を決定するため、専門医を受診することが推奨されます。 原因を早期に特定することで、患者さん一人ひとりに合わせた治療法を提示することが可能となり、生活の質の向上につながります。 […]
キアリ奇形I型、特発性脊髄空洞症、終糸病を有する女性患者における妊娠・分娩・麻酔

終糸病、アーノルド・キアリ奇形I型、および特発性脊髄空洞症と診断された女性患者からは、妊娠、分娩、ならびに妊娠・分娩期に選択可能な麻酔法について、多くの相談が寄せられます。 これらの疾患は、妊娠中に生じ得るリスク、最も安全な分娩方法、さらに適切な麻酔法の選択に関して、患者本人だけでなく医療従事者にとっても大きな懸念事項となることがあります。 アーノルド・キアリ奇形I型、特発性脊髄空洞症、終糸病患者における妊娠 一般的に、これらの疾患を有する患者では、妊娠前に十分な医学的評価を受け、脳神経外科的治療の適応があるかどうかを検討することが推奨されます。 妊娠中は、産婦人科医、麻酔科医、脳神経外科医、および神経内科医による多職種連携のもとで経過を観察し、母体と胎児の双方にとって最適な個別管理計画を策定することが重要です。 産科的観点からは、分娩方法や麻酔法について、すべての患者に共通して適用できる単一の推奨は存在しません。それぞれの症例について、臨床症状、脳神経外科的既往、画像所見、および脊髄・頭蓋頸椎移行部の解剖学的特徴を総合的に評価したうえで、個別に判断する必要があります。 妊娠中および分娩時における神経学的リスク アーノルド・キアリ奇形I型については、一部の研究者が次のように述べています。 「妊娠および分娩時に生じる生理学的変化、陣痛に伴う疼痛、ならびに血行動態の変動は、とくに併存疾患を有する患者において、頭蓋内圧に影響を及ぼす可能性がある。」 一方、終糸病およびこれに関連する疾患では、脊髄形成異常に伴う病態であることから、次のように指摘されています。 「胚発生期における脊椎形成異常に起因する病態では、脊髄円錐が通常より低位に位置していることがあり、その結果、神経軸麻酔(脊髄くも膜下麻酔・硬膜外麻酔)の施行時に脊髄損傷のリスクが高まる可能性がある。」 この点は、経腟分娩および帝王切開時に神経軸麻酔を選択する際の重要な検討事項となります。 終糸病患者における硬膜外麻酔および脊髄くも膜下麻酔(脊椎麻酔) 終糸病およびこれに関連する疾患は、妊婦を担当する麻酔科医にとって臨床上の課題となることがあります。その理由として、これらの疾患は産科診療において比較的まれであり、十分な経験を有する医療機関が限られていることが挙げられます。 複数の研究者は、次のように述べています。 「これらの疾患は、分娩を担当する麻酔科医にとって課題となる。産科領域では発生頻度が低く、十分な臨床経験が得られる機会が限られているためである。」 このため、産婦人科医は、患者の診療に携わる神経内科医および脳神経外科医と密接に連携し、包括的かつ安全な周産期医療を提供することが望まれます。 アーノルド・キアリ奇形I型女性>患者における帝王切開と経腟分娩 分娩方法については、一部の研究において次のように報告されています。 「アーノルド・キアリ奇形I型と診断され、外科的治療を受けていない患者では、予定帝王切開が選択されることが多い。」 一方、当研究所の医療チームの経験では、終糸病、特にアーノルド・キアリ奇形I型および特発性脊髄空洞症を合併し、当研究所の終糸システム®による手術を受けた患者では、神経軸麻酔(硬膜外麻酔または脊髄くも膜下麻酔)を施行する前に、脊髄円錐の位置を画像検査などにより慎重に評価することが推奨されます。 その目的は、穿刺部位を脊髄円錐より尾側に設定することにより、脊髄損傷、脳脊髄液漏、その他の麻酔関連合併症のリスクを低減することにあります。 妊娠・分娩に関する医学的推奨事項 妊娠および分娩の管理は、一人ひとりの病態に応じて個別に評価されるべきです。そのため、これらの疾患を有する妊婦には、以下の事項が推奨されます。 担当するすべての専門医に相談すること。 産婦人科医、麻酔科医、神経内科医、脳神経外科医の間で十分な情報共有と連携を図ること。 これまでの脳神経外科手術歴および現在の神経学的状態について詳しく伝えること。 必要に応じて、最新のMRIなどの画像検査結果を提示すること。 このような多職種連携による周産期管理を行うことで、母体および胎児双方にとって、より安全性の高い妊娠・分娩計画を立案することが期待されます。 参考文献 Neuraxial anaesthesia for the parturient with intracranial pathology. C. Warrick, W. Schievink and M. Zakowski. BJA Education, 25(1): 38–45 (2025). Pregnancy complicated by neurological and […]
2026年 国際脊柱側弯症啓発デー:特発性脊柱側弯症の理解と診断および治 療法

2026年6月25日 国際脊柱側弯症啓発デー 6月25日は「国際脊柱側弯症啓発デー」です。この日は、脊柱側弯症について の認識を高め、早期診断を促進し、この疾患とともに生活する人々への理解を 深めることを目的としています。 脊柱側弯症は、背骨が側方へ弯曲することを特徴とする筋骨格系の疾患です。 その原因、発症年齢、または脊柱のどの部位に生じるかによって、さまざまな 種類に分類されます。原因が特定できない場合、「特発性脊柱側弯症」と呼ば れます。 世界的にみて、思春期特発性脊柱側弯症は、成長期に診断される脊柱側弯症の 大部分を占めています。 特発性脊柱側弯症と終糸病の関連性 40年以上にわたる臨床経験に基づき、当研究所の脳神経外科チームは、多くの 特発性脊柱側弯症の発症および進行において、終糸病が重要な役割を果たして いると考えています。ただし、他の関連因子の影響を否定するものではありま せん。 ミゲル=B・ロヨ=サルバドール(Dr. Miguel B. Royo Salvador) 医師によって提唱 された脊髄牽引理論によると、特発性脊柱側弯症は、緊張した終糸によって生 じる脊髄の牽引に対して、脊柱が適応または代償する結果として発生するとさ れています。この異常は通常、一般的な画像検査などでは検出できないとされ ています。 脊柱側弯症の進行に関連するリスク要因 以下の要因が、脊柱側弯症の発症または進行に影響を与える可能性があります。 終糸病および関連疾患の家族歴 小児期および思春期 女性であること 30〜40度を超える側弯角度(特に重力による変形の影響が加わる場合) 外傷や成長過程に関連して脊髄牽引が急激に増加すること 脊柱側弯症が生活の質(QOL)に及ぼす影響 国際脊柱側弯症啓発デーに際して、脊柱側弯症が患者の生活の質に大きな影響 を及ぼす可能性があることも忘れてはなりません。 脊柱の変形だけでなく、患者さんの多くは以下のような問題を抱えることがあ ります。 セルフイメージや自己肯定感の低下 持続的または慢性的な痛み 身体機能の制限 コルセットやその他の装具を長期間使用する大変さ 思春期における精神的・心理的な負担 これらの要因はすべて、患者さんが治療に対して抱く期待や、治療結果に対す る評価に影響を与えます。 脊柱側弯症の診断と脊髄牽引の検出 最適な治療法を決定するためには、正確な診断が不可欠です。 評価には通常、以下の検査が含まれます。 立位での正面および側面の全脊柱X線検査 脊柱のMRI検査 専門医による臨床評価 これらの検査により、脊髄牽引の可能性を示す徴候を確認し、終糸病が認めら れる脊柱変形と関連しているかどうかを評価します。 終糸システム®による脊柱側弯症の治療 脊柱側弯症患者において脊髄牽引と一致する所見が確認された場合、当研究所 の専門医は終糸システム […]
アーノルド・キアリI型症候群において不安や抑うつ症状はよくみられるものか。

アーノルド・キアリI型症候群において、不安や抑うつ症状は比較的よくみられるとされています。実際、不安やうつ患者に認められることを示す科学的報告も存在します。ただし、これらは小脳扁桃下垂そのものによる直接的な症状と考えられているわけではありません。一方で、患者群では不安や抑うつの発症頻度が比較的多いことが報告されています。 アーノルド・キアリI型症候群と情緒障害の関係 多くの研究者は、生理学的・運動機能的・認知機能的側面に加え、アーノルド・キアリI型症候群に伴う臨床的状況、たとえば、診断に対する不確実性、治療開始までの遅れ、疾患への理解不足などが、反応性の不安症状や抑うつ状態を引き起こしやすくすると考えています。こうした心理的反応は、しばしば「自分の身体や生活を思うようにコントロールできない」という感覚や、病状の慢性化と関連しています。 臨床現場では、不安発作や抑うつ状態は比較的多くの患者に認められます。これらはキアリ奇形そのものというよりも、以下のような関連要因によるものと考えられています。 慢性疼痛 機能制限 日常生活および就労への影響 病気の進行に対する不確実性 終糸病と神経心理学的障害 終糸病の原因論的枠組みにおいて、脳神経外科チームでは、小脳扁桃下垂や脊髄空洞症の有無にかかわらず、患者にさまざまな心理学的・神経心理学的変化がみられることを確認しています。これらの変化は、多様な症状パターンとして現れる可能性があります。 主に影響を受ける領域 認知能力(注意力、情報処理機能、記憶力など) 気分・情緒面 性機能 これらの神経心理学的障害は、特に慢性疼痛を伴う場合、生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす可能性があります。 また、認知処理と疼痛知覚の間には双方向性の関係が存在すると考えられており、それによって症状の慢性化や、不安・抑うつとの関連がさらに強まる可能性が指摘されています。 慢性疾患による心理的影響 アーノルド・キアリI型症候群や終糸病は、慢性的かつ進行性となる可能性があるため、患者の不安を高めやすい疾患とされています。病状悪化への恐れや将来への見通しの不透明さは、感情面や心理的適応に悪循環をもたらすことがあり、結果として不安や抑うつ症状の憎悪につながる場合があります。 包括的評価の重要性 当研究所では、以下の場面において神経心理学的側面を含めた総合的評価が重要であると考えています。 終糸病/神経頭蓋脊柱症候群の診断 初期段階における予後評価 術後の治療効果判定 術後フォローアップ これらの要素を十分に評価しない場合、治療結果の解釈や、実際の治療効果の評価に悪影響を及ぼす可能性があります。 参考文献 Fernández Martín, P. Evaluación e intervención psicológica en un caso de trastorno adaptativo mixto en una mujer con Arnold–Chiari tipo I. Norte de Salud Mental. 2008;31:99–104. Suhr, J. A. (2003). Neuropsychological […]