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佐藤なつ:脊髄牽引症候群、小脳扁桃下垂、特発性脊柱側弯症、特発性脊髄空洞症

Published by at 2020年9月25日


手術日:2013年12月10日

術前2013年6月7日
術後2019年7月30日

はじめまして。2013年12月(当時8歳)に日本人患者の4人目として、バルセロナキアリ研究所で終糸切断手術を受けました日本在住の娘の母です。娘はアーノルド=キアリ奇形I型、特発性脊髄空洞症、特発性脊柱側弯症を患っておりました。現在手術から6年半経ちました。術後の経過は良好です。手術前の空洞は腰まであり重症と言われておりましたが、術後半年後のMRIで半減、1年後で1/3程度に縮小、1年半後、2年半後、3年半後…と消滅してはいませんがさらに縮小しています。変化が見られるのに時間が2-3年かかると言われていた小脳下垂は2年半目のMRIで初めて多少改善が見られだし、4年半後となる一昨年のMRIでも効果が認められました。日本の主治医の先生も大後頭孔減圧術でない終糸切断術という手術の効果に大変驚かれながら、「空洞が完全には消えなくても、症状が出ていなければ、ここまで縮小すると問題ない」と仰っています。キアリ奇形(小脳下垂)に関しても症状が出ていない限り心配ないとの判断で、脳外科に関しては現在年1回のMRI撮影による経過観察のみです。(娘は元々、痺れ、頭痛、温感異常といった独特の症状は全くありませんでした。)

但し、側彎に関しては、終糸切断手術では進行防止は出来ないとのことで、別途側彎矯正治療として世界的に有名なシュロス法(ドイツでは健康保険適用。日本では予防扱いで保険適用外)というリハビリを研究所より紹介され、日本でシュロス法の理学療法士の先生を探し、一般的なボストン型の装具を装着しつつ、術後4ヶ月で通い出しました。4年ほどは進行が抑えられましたが、進行しやすいと言われる成長期に入った一昨年12月にコブ角48度まで悪化しました。そこで改善を求め、シュロス法を考案したシュロスファミリー3代目の先生が改良された最新のシュロス・ベストプラクティスを独自の矯正・改善効果を見込めるゲンシンゲン装具(シェヌー型)と一緒にご提供くださる先生をインターネットで調べて見つけ、通院先を変更しました。ダブルの効果のおかげか1か月でコブ角33度まで改善しました。勿論、まだ予断を許さない角度ですので、現在もリハビリに月1回通院し、側彎の改善に努力しています。一つの治療法でだめなら、また別の治療法を探して常に前向きに進んでいます。

お陰様で中学三年生になった娘は普通に日常生活と学校生活を送っております。今現在も同じ病気で苦しんでいる方、終糸切断手術を検討なさっている方の参考に少しでもなればと思いまして、術後約6年半経過した今の段階の娘の状態を述べさせて頂きます。その中で、私達が感じた、バルセロナキアリ研究所で終糸切断手術を受けることを決断するまでの4つの乗り越えなければならない壁、術後から現在に至るまでの経過、キアリ研究所について思う事を以下に述べさせて頂きます。

【バルセロナキアリ研究所で手術を受けることになった経緯】

娘は保育園の5歳時の内科検診で脊柱側彎を診断されました。3年経過観察に通いましたが、小学1年生の3月、コブ角の進行速度が早まったため、MRI撮影を勧められました。結果上記3疾患(アーノルド=キアリ奇形Ⅰ型)、脊髄空洞症、脊柱側湾症)が告げられました。同時に、娘の側彎は病気(キアリ奇形(I型)、脊髄空洞症)に起因するので、そちらの治療を脳外科で先に済ませて初めて側彎治療にあたれると告げられました。この時脳外科の先生に「治療法は、大後頭孔減圧術。しかも、MRIの結果で空洞は腰まで達して重症の為、一刻も早い手術が必要」と勧められました。「8歳の娘になんてこと!」がその時の正直な気持ちでした。しかし、娘の場合、まだ全く頭痛、痺れ、温寒異常等病気が原因となる症状は皆無でした。(ただ、小学校入学後原因不明の鼻血や腹痛はありましたが、手術後は無くなりました。)

私と主人は半信半疑で、その日から病気と手術について調べ始めました。インターネットで調べたところ大後頭孔減圧術は、症状の悪化にともない、必要があれば2度3度と手術を重ねていくこともあること、体への負担も大きくリスクも伴い術後も症状が改善されないこともあると知りました。調べれば調べるほど、リスクと術後の後遺症が深刻である体験談が見つかり、治療法は本当に大後頭孔減圧術一つだけで他にないのか、とさらなる調査に繋がったのです。信頼は大事ですが、お医者様の考えだけではなく、素人でも独自調査してある程度の知識を持った上で、今後の治療方針を相談した方がお医者様側の対応も違うと考えた為です。

そのような中、キアリ研究所と終糸切断手術という方法をインターネットで知り、キアリ研究所のHPのコピーやロヨ先生の論文(英文)も印刷して、主治医の先生に終糸切断手術に関する意見をお伺いしましたが、その反応は一般的で、終糸切断術の効果に疑念を抱いておられました。しかし、全否定はせず柔軟に終糸切断を一つの術法として興味を示し、私達が終糸切断術を受けると決めた後は、キアリ研究所の指示にそった手術前の提出データ準備にご協力頂けました。ご理解のある主治医の先生に出会えたことが私達にとってはまず幸運だったと思います。何故なら、術後何回かご相談を受けた日本の患者さんの多くが、大後頭孔減圧術以外は効果が立証されていないのでお勧めできない、或はもし海外で受けた終糸切断手術の術後のフォローは出来ないと主治医の先生に告げられて、断念せざるをえない方も多いことが分かったからです。

よって、キアリ研究所での手術を考える上では以下の4つの関門を乗り越える必要があったように思います。

<第一関門> 日本の主治医の先生との良好な関係の樹立

患者の同意なしに手術を行うことは不可能です。私達が考える間、主治医の先生は大後頭孔減圧術の手術手配を保留し、バルセロナでの手術を決めた時も受け入れて下さいました。帰国後もMRI撮影手配等、経過観察をして下さいます。主治医の先生にとって、娘の術後の空洞縮小速度は驚く程早かった為、終糸切断術にさらに興味をお持ち頂いたらしく、ロヨ先生が執筆された『終糸システムショートガイド』の英語版をご購入され読まれたそうです。娘の症例をきっかけに日本で少しでも終糸切断術という術法の認知が広がるとよいのにと思います。

勿論、私達は空洞症とキアリ奇形の代表的な症状は殆ど現れていないのに、今手術をすべき=娘の体にメスをいれるか当時は悩みました。キアリ研究所の日本人スタッフの高橋さんとコンタクトをとり、疑問点の質問とその回答を頂くやりとりの中で、丁寧と真摯なご対応がキアリ研究所への信頼感に繋がりました。しかし一方で、お医者様側だけでなく、患者側からの意見も聞きたいと思い、日本人で娘より先に終糸切断手術を実際に受けられたお二人の方にもメールでお話をお伺いしました。そうした中で、大後頭孔減圧術よりも、娘の体に負担が軽く術後の重篤な後遺症もなさそうな終糸切断手術をまず試し、効果がなければその後、大後頭孔減圧術を受ければよいのだ、と覚悟するに至ったのです。その時は研究所の先生方には失礼ですが、正直、終糸切断手術の効果にまだ半信半疑でした。幸いなことに、脊髄の空洞の驚くべき縮小速度で、術後約6年半この心配は杞憂に終わっています。

<第二関門>バルセロナキアリ研究所の地理的遠さ

残念ながら日本に提携医療機関がありません。帰国後は、日本の主治医の先生の経過観察等のご協力が不可欠です。キアリ研究所の先生方も地理的距離をよくご理解していらっしゃるので、日本での主治医の先生との信頼関係構築へのアドバイスと治療に関する相互協力をお申し出下さり、非常に助かりました。

診療情報提供書(施術、薬の処方に関して等)他、全ての書類は約1週間後の術後検診までに日本語版でご用意頂けました。現在術後6年半ですが、経過観察で実際に通院する代わりに、術後日本で撮影したMRIデータを毎回インターネット経由でお送りして、キアリ研究所のコメントを頂戴しています。何か異変や心配な症状あればメールで質問すれば、ロヨ先生やフィアヨス先生のご指示を高橋さんがお伝え下さり、触診が必要な場合、研究所からの見解を添えて該当科の受診を薦めて下さいます。まるで日本国内の病院で連携して治療をして頂いているようで本当に安心です。つまり、ありがたいことに距離的に触診が出来なくてもしっかりアフターケアはして頂いています。

<第三関門>手術費用、渡航費、滞在費

日本で大後頭孔減圧術を受けるよりも高額になる点は事実です。今の日本では子供の医療費に関して、健康保険組合と自治体で医療費助成を行っている為、もし、娘が日本で手術(大後頭孔減圧術)を受けた場合、手術費用と入院費用はゼロ(食事代と付添人の宿泊費のみ)でした。(患者が子供の医療費助成対象から外れる年齢の場合の費用の方に関しては、調べてないので分かりません。)一方スペインで終糸切断術を受けると、基本的には健康保険適用外となる場合が多いので、手術費、入院費、術前検診含め大体の費用が当時円安(€1≒¥143)のせいもあり、日本円で200万円を超えていました。これに飛行機代、ホテル代(=入院は1泊2日ですが、アジアからのような遠距離の場合、術後約10日後に行われる術後検診まで滞在が必要)が追加費用でかかり、合わせるとそれなりの金額になります。(現在の手術費は上がっているかもしれませんので、詳しくは研究所にお問合せ下さい。)

<第四関門>言語の問題やホテル、飛行機等の手配

海外に慣れていない人には相当タフなことかもしれません。幸い私達の場合は私に留学経験があり、英語による意思疎通が可能でかつ、仕事で海外慣れもしていたので手配自体(インターネットの旅行サイト使用)にそんなにはハードルを感じませんでした。言語の点で、医療(治療)面に関してはキアリ研究所の高橋さんの通訳があり、何の不安もありません。問題は、退院後約1週間~10日後に行われる術後検診までのホテル待機期間です。この期間中、回復途中にある患者を抱えて日本語が通じない中、通訳なく自力で生活しなければなりません。私達の両親にも自分達だったらとても無理だと言われました。しかし、ホテルや航空券の手配は旅行代理店にお願いすることも出来ますし、言語も今は小型翻訳機やスマートホンのGoogle translate(Googleの翻訳機能)等があるので、解決の方法は探せばあると思います。ちなみに、ホテルに関して、私達は簡易キッチン付き滞在型ホテルに宿泊しました。(こちらは以前高橋さんのブログで紹介して頂きましたので、そちらをご覧ください。:「患者さんの泊まった「アパートホテル アテネア(Aparthotel Atenea)」の体験記」https://ameblo.jp/institutchiari/entry-11752100714.html)軽い散歩は問題なしとのことで娘の状態を見ながら、退院翌日からルームクリーニングの間に3時間程外出しました。大事をとって部屋でずっと過ごし回復に努める患者さんもいらっしゃるとは思いますが、私達は娘にとって初海外を手術と治療という暗い思い出のみでなく、異文化体験という明るい思い出も残してあげたくて、一日一カ所でしたが、名所旧跡巡りや、サッカー観戦、フラメンコ鑑賞等に出かけました。それくらい終糸切断術は娘の体への負担が少ないものでした。ロヨ先生はじめ研究所スタッフの皆様のプロフェッショナルさに感謝です。

結局私達は「娘の体に一番良い方法は何か。将来的な生活の質を普通に保てるように不安材料を一番減らせる方法は何か。」ということを基準にキアリ研究所での終糸切断手術を選んだように思います。

【手術後から現在 – 側彎治療を中心に】

終糸切断術が成功しても、側彎の原因の一つである病気(キアリ奇形I型と脊髄空洞症)の進行抑制が出来だけで、側彎の進行を完全に止めることが出来るわけではありません。傷口が完全に塞がった術後一か月半から、日本の整形外科側彎科の主治医の指示でボストン型装具(健康保険適用)を装着しました。日本では側彎はこの装具を装着したら、あとは経過観察だけという残念な状態です。ですが私達は、体の外側の装具装着だけでは筋力が落ちてしまうからと、キアリ研究所の先生のご指示でドイツでは既に側彎矯正に効果が認められ、リハビリとして健康保険適用となっているシュロス法を術後4ヶ月から開始して、途中でシュロス・ベストプラクティスという最新の方法を習得して教えて下さる先生に通院先を変えて現在に至っているのは前述の通りです。シュロスファミリー3代目のDr.ワイスが開発された側彎の個人個人のカーブ(3カーブだったり、4カーブだったり)に合わせて作製され、側彎自体を(横の曲がりだけでなく捻じれも)矯正し改善する見込みのあるゲンシンゲン装具(残念ながら現在のところ日本では保険適用外)とシュロス・ベストプラクティスというリハビリの組み合わせは、個人差はあると思いますが、娘を見る限り大きな効果が得られました。

最初のシュロス法の理学療法士の方に柔軟運動やバランス感覚、姿勢を整え直すことが側彎を矯正していく上で重要であることを教わりました。その方曰く、骨は10歳位までは柔らかく、ある程度バランスを整え直す(=曲がり具合の角度を減少させる)ことが可能とのことです。そう考えると、娘は運よく早い時期にみつかり、かつ十分ではないにせよ早くに治療に入れました。知らなければ、もっと症状が進行していたかもしれません。勿論、もし最初から、シュロス・ベストプラクティスに出会えていたら、終糸切断手術直後はまだコブ角27度位だったので、そもそも今ほど進行せず、改善が早かったかもしれないですが、それは結果論です。今出会えて、改善できているのですから、希望を持っています。同じ病気に苦しむ他の方にも、私達が見つけた現段階での方法をお伝えすることで、次の方々がその段階からさらに良い方法を見つけられる選択肢の参考になればと考えております。

【最後に – キアリ研究所について今、思うこと】

日本の大きな病院は、縦割りの印象が強く、娘が通う大学病院も電子カルテは共有するものの、患者に対する先生方の横のつながり、治療方針における情報共有は少ないように感じます。しかし、キアリ研究所は対象疾病をキアリ奇形、側彎、脊髄空洞症、ヘルニア等に病気を絞っていらっしゃるので、これらの病気に関して脳外科、神経外科、整形外科のスペシャリストの先生が一堂に会して病気を多角的に診て頂けたように思います。また、実際の検査に関して日本の脳外科では、神経系の検査は殆ど行われませんでした(MRIのデータを見る以外はお話のみ)。一方、キアリ研究所では初めて訪問した際は手術前日だった為か、1時間強かけて体中の反射(お腹の3本ある神経の内1本が手術前は殆ど反応がなくなっていましたが、手術後反射が復活しました。)、サーモカメラによる体の体温状態(これも手術前は指先、つま先が冷たくなっていたのが、術後は末端まで暖かい表示になり、何らかの改善があったのだと思います。)等の検査が行われました。このような細かい検査は日本ではありませんでした。国によって色々なやり方があるのだと感心し、かつ病状の術前術後の変化を視覚的に捉えられるため、素人でも分かりやすいと感じました。

キアリ研究所のスタッフの方々の丁寧なご対応のおかげで、渡航前の手術手続きのやり取りをする間に既にある程度信頼関係が築かれたので、キアリ研究所通院初日が手術前検診日、翌日が手術でも不安はありませんでした。また、帰国後日本でMRIや側彎のレントゲン写真を撮影する度に、キアリ研究所にもデータと画像診断書を送付して症例としてデータを保管して頂いています。ですから、手術で関係が終了ではなく、術後6年半以上経つ現在でも、病状に関して何らかの相談があるときはオンライン(メール)でいつでも先生方に聞くことが出来、コメントを頂けます。触診が不可能なため、必要な場合はキアリ研究所の所見を頂いた上で、日本での受診となります。しかし、これははからずとも、一つの症状に対して、2つの違った医療機関で診て頂くことになるので、セカンドオピニョンを得られるのと同じと感じています。よって、日本の主治医だけでなく、バルセロナのキアリ研究所の先生方との良好な関係を保ち続けることも、実は非常に大切だと感じております。

完全に治ることは無いと言われている3つの病気ですが、娘は今普通に生活を送ることが出来ています。側彎の進行を抑制するために、月に1度(装具の状態も見て頂きつつ必要があればその場で直して頂いて)リハビリに通わなければなりませんが、病気と上手に付き合って生活する術をキアリ研究所の先生方に教えて頂いたように思います。まだまだ日本では認知度が低い終糸切断術ですが、患者の選択肢として、大後頭孔減圧術だけでなく、終糸切断術も挙げられるようになったら、娘と同じ病状で苦しんでいる方々の精神的かつ肉体的負担が減るのではないかと思います。

(この本文は術後3年半経過した2017年夏ごろに書いたものに、今回2020年6月段階で内容を更新・追記しました。あくまでも私達の体験や感じたことですので、医学的根拠とは言えない部分もあるかもしれない点ご了承下さい。)


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