Published by ICSEB at 2007年4月17日
手術日:2007年4月
現在私は48歳です。小さい頃から頭痛持ちで、それは年を重ねるごとにひどくなっていきました。2000年から咳き込むようになって、頭痛もひどくなりました。頸痛と右腕痛もあったので医者に診てもらいましたが、原因はわからず、詳しい説明も受けられないまま、このような状況は2005年10月まで続きました。ひどい疲労感で、散歩をしただけでもすぐに疲れてしまい、脚はというと、コンクリートで固められたようにうまく動かせず、よく転んでいました。体中が焼けるような感覚とめまいがあり、バランスがうまく取れず、舗装されていない道を歩くのは大変でした。手に力が入らなくて、うっかり物を落としてしまう こともありました。視界がぼやけ、焦点も合わせにくく、光が異様にまぶしく感じました。手足の感覚異常、しびれ、痙攣、嚥下困難、息苦しさ、睡眠時無呼吸症候群、尿失禁、排便時の電気が走るような痛み、括約筋がうまく機能していない感覚もありました。怒ったり泣いたりすると、頭が圧迫されひどく痛みました。頸部の痙攣、温覚異常、筋痙攣、性欲減退、胃食道逆流症、高血圧も見られました。
2005年10月のある日、救急外来のXXX先生に診てもらった時、先生は痛みが頸椎椎間板ヘルニアから来ているものではないかと疑い、念のためMRI検査を受けるように言いました。そして、そのMRI検査の結果から、第5頸椎と第6頸椎の椎間板ヘルニアの他、アーノルド・キアリ奇形I型と脊髄空洞症(第 3頸髄-第1胸髄)が見つかりました。
イタリアのベルガモのOspedali Riuniti病院のXXX脳神経外科医に診てもらったところ、大後頭孔減圧術を勧められました。その手術では、大後頭孔の骨を削って、第1頸椎の固定術と硬膜の形成術をすると言われました。手術を受ける前にミラノのベスタ神経学研究所のXXX先生に診てもらいましたが答えは同じで、大後頭孔減圧術の実施でした。手術を受けなければ半身不随になるのではないかと怖くなり、少なくとも手術を受ければ車いす生活にはならないと思う一方、リスクの高い複雑な手術のわりに、病気の進行を防げるか確かではない手術を本当に受けていいのか悩みました。のちに神経内科のXXX先生にも診てもらい、手術を受けない方法はないかと相談しましたが、先生の答えはここでも大後頭孔減圧術の実施でした。その時から、私はいつ爆発してもおかしくない爆弾を体内に抱え、常に危険と痛み の中で生きていました。
希望を持たないようにするのは想像以上に難しいことで、痛みはひどくなるのに、あたかも何もなかったかのように振る舞い、自分が苦しんでいるのには何か理 由があるのだと自分に言い聞かせ、でも本当はどうしたらいいのかわからず、やるせなくなって頭を壁にぶつけたい気持ちでいっぱいでした。
ところがある晩インターネットで、ロヨ先生の手術を受けたというリタさんとリタさんのご主人のアンジェロさんの体験談を読みました。終糸切断手術はアーノ ルド・キアリI型症候群の治療で行われている手術で、ロヨ先生の研究はバルセロナ自治大学医学部の正教授の審査も通っているれっきとしたものです。終糸切断手術は、尾てい骨のところから終糸を切るので、髄膜を開く必要のない体に負担の少ない手術です(一方、一般的に行われる終糸切断手術は、脊髄係留症候群の治療で行われるもので、椎骨や脊髄を触る大変危険な手術です)。ロヨ先生の手術は痛みも、術後の手足協調訓練などのリハビリもありません。
2007年1月にロヨ先生に診てもらったところ、神経系の損傷リスクを考え、早期に手術を受ける必要があると言われました。私はいったんイタリアに戻り、 海外での治療を健康保険でまかなえるよう、手続きを始めました。その手続きはイタリアロンバルディア州の要請で、ミラノのベスタ神経学研究所所長のXXX 先生が払い戻しを許可するかどうか決めることになりました。結果、ベスタ神経学研究所からは、イタリアでもロヨ先生と同じ手術を受けられるとし、払い戻しは却下されました。
イタリアでもロヨ先生と同じ手術が受けられるなんて、それは違います!診てもらった先生達には、口をそろえて大後頭孔減圧術だけしか勧められませんでした。
イタリアのアーノルド・キアリ症候群と脊髄牽引症候群友の会の掲示板によると、ニューヨークキアリ研究所のXXX先生はベスタ神経学研究所と交流があり、 2007年3月30日のアーノルド・キアリ奇形と脊髄空洞症に関する養成講座で、”終糸切断手術の合理性”を言及していた時、ベスタ神経学研究所の脳神経外科医が終糸切断手術を行ったと話していたそうです。
イタリア国家は、国民が海外にいても緊急/不可欠であれば海外で治療を受けることを認めていますが、今回のように私の健康に不可欠な手術であるにもかかわらず、イタリア国内で受けられるからと、スペインのベテラン医師の手術の払い戻しを受理しないとはどういうことでしょうか。それとも、薬の売れない商売に ならない奇病は誰も関心を持たないのでしょうか。スペイン人という国籍の違いだけで、その医師が体に負担の少ない治療をしていても、かたくなに受け入れようとしないイタリアの態度はどうしてでしょうか。イタリアもスペインもヨーロッパではないのでしょうか。このような視野の狭さは、(現在では当然とされる)地動説を唱えたコペルニクスが否定されていた時代に戻ったかのようです。スペインでのヘルニア手術を受理されないのは理解できますが、終糸切断手術のような体の負担も痛みも少ない手術の払い戻しを却下するなんて…。
私は病院に勤務して30年になりますが、いい部分も悪い部分も見てきました。「科学」は大変閉鎖的な分野で、医療従事者の本質的価値さえも忘れさせます。 国民の要求に応え、よりより医療サービスを提供するためには、医療従事者は痛みに対するケアとそれに対する理解を忘れてはなりません。また、選択する自由および自己決定は、病気とともに生きる人の権利であり尊厳です。多くの場合、メディアはおもしろおかしくうわべだけの尊厳や権限を主張し、国民医療に対して否定的な立場を取っていますが、かといってよりより医療システムを望んでいるというわけでもなさそうです。
結論から言うと、私カタリナ・ラベリは2007年4月17日にロヨ先生に手術をしてもらいました。術後、ロヨ先生には私の終糸が太く、緊張状態にあったと言われました。翌日、退院前に行われた検診で、バビンスキー反射はなくなっていて、両手のしびれは80%改善していました。今まで痛みと冷たさしか感じなかった首や右肩は、手術から数年後、皮膚の奥深くまで手のぬくもりを感じられるようになりました。トイレに行っても頭は痛くならないし、尿失禁ももうあり ません。
退院後の午後、ゆっくり散歩をしていると、今までコンクリートで固められていた脚のつま先が温かくなっていることに気づきました。以前は、針で刺されたような痛みと痺れもありましたが、もうありません。生きていると感じました。術後、お尻にガーゼを貼られイタリアに帰ってきました。お尻にガーゼなんてここ で言うのも恥ずかしいですが、普通の生活が戻ってきたことが嬉しくて、つい言いたくなってしまいます。
ロヨ先生には、多くの症状は神経組織の再生不可能な損傷によって起こっているものだから改善することはないけれど、死亡してはいないものの機能しなくなっ た神経組織がある場合は、血液循環が回復することによって、症状が改善するかもしれないと言われました。脊髄は苦しみから解放されたので、あとは術後の経過を見守るのみです。時間はかかるかもしれませんが、もうすでに耳の後ろを釘で打たれたような感覚はなくなり、今は痺れだけなので、それだけで十分です。 早期に手術をすれば早期に回復することを、今更ながら実感しました。
他の患者さんは、どうでしょうか。どうして大後頭孔減圧術以外に治療法があることを教えてもらえないのでしょうか。私は幸運にもインターネットを通じて終糸切断手術という治療の可能性を見つけ、現在私は、ロヨ先生に手術をしてもらった患者さんと知り合う機会に恵まれ思うのは、イタリアに私達患者の存在を認めてほしいということ、また、この奇病や治療法について議論を交わし、終糸切断手術を受けるのは私達患者の権利であることを認識してほしいと思っていま す。苦しい現状に置かれている皆さん、皆さんは一人じゃありません。奇跡なんてものではなく、本当に痛くない治療法が存在していて、それはみなさんが受けられるものです。
手術は短時間で終わり、リハビリも必要ありませんでした。手術から1年後に行われたMRI検査で空洞の縮小が確認され、ベルガモのOspedali Riuniti診療放射線技師は手術の効果にびっくりしていました。神経内科のXXX先生の術後検診およびMRI画像診断の結果、終糸切断手術が有益であ ることが証明されました。
手術を受ける前は、右側の舌がしびれて痒くなっていたのですが、今はもうその症状もなくなりました。また、頭と肩の疼痛に関しては、まるで鎮痛薬を飲んだかのように術後軽減しました。手術から数年ののち、やっと何回咳をしても頭が爆発するような感覚はなく、ペットボトルや瓶のふたも自分で開けられるように なりました。今後他の症状に改善が見られなかったとしても、今日までに得られた結果は、私にとって最高の贈り物です。
ロヨ先生、危険な状況から私を救ってくれてありがとうございました!
2009年1月8日 ベルガモ(イタリア)
カタリナ・ラベ
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