慢性疲労症候群また
最終更新日: 28/11/2023, ミゲル・ロヨ医師, 登録番号: 10389. 脳神経外科医、神経内科医
定義
慢性疲労症候群または筋痛性脳脊髄炎は複雑かつ重篤な全身疾患で、多系統にわたる慢性の症状が長期間続きます。十分に休養をとっても回復しない極度の疲労感が特徴で、日常生活活動に深刻な制限をもたらし、場合によっては寝たきりの状態が続くこともあります。
また、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎に対する新たな疾病概念として、「全身性労作不耐症」とも言われています。1984年から、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎や線維筋痛症などを包括する「中枢性過敏症候群」という概念が生まれました。
図 1
症状
慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎の症状は、活動後の24時間以上続く激しい疲労感、体調不良、症状の悪化を伴う疲れ、原因不明の関節痛や筋肉痛、頭痛のほか、注意力低下、集中力低下、健忘、睡眠障害、寝ても疲れが取れない、めまい、咽頭痛、リンパ節の腫脹などが特徴的な症状です。
診断法
慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎は今まで、診察や検査を通して似たような症状を示す他の病気を除外することで、診断が下されていました。除外診断のためには、6ヶ月以上続く極度の疲労のほかに、少なくとも上記症状の4つが当てはまることが必要です。
さらに、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎には複数の診断基準があり、例えば1994年のフクダ診断基準、2003年のカナダ診断基準(CCC)、そして2011年には筋痛性脳脊髄炎のための国際的合意に基づく基準(ME-ICC)が発表されました。また、2018年には、中富氏によってPET(陽電子放射断層撮影)を用いて慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎患者の脳内神経炎症の存在が明らかになり、神経炎症の程度と臨床状態には関連があることがわかっています。
終糸システム®では、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎と類似疾患である線維筋痛症に関する科学的発見、および終糸病患者で慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎と診断された症例が複数あることを考慮し、脳部と脊柱部のMRI検査の実施を提案しています。MRI検査によって、脊髄牽引というニューロイメージングレベルで目に見える異常を確認することができます。また、MRI検査のほか脳部のPET検査の実施も提案しております。
原因
現在、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎を引き起こす具体的な原因については解明されていません。最新の研究に関していうと、専門家の間では、先天性素因と他の要因の組み合わせによって慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎が起こっているのではないかと考えられています。慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎の原因解明のために、以下に焦点が当てられ研究が進められています。
- ウィルス感染: ウィルス感染症後に慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎を発症した例が確認されています。
- 免疫系の異常: 慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎患者の免疫システムに何らかの異変があることが確認されています。
- ホルモン異常
– 当研究所の治療計画「終糸システム®」による見解
慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎と類似疾患である線維筋痛症のいくつかの例で、脊髄と脊柱内の中枢神経系との間に先天性の非同期の成長が起こっていることが確認されました。この異常が(終糸の通常より短いまたは緊張状態にあるために生み出される)仙部から頭蓋部にかけての強い脊髄牽引を生み出し、線維筋痛症を引き起こしているのではないかという最新の研究をもとに、当研究所では線維筋痛症の類似疾患である慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎においても、脊髄牽引の関連性を疑う必要があると考えています。
リスク要因
慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎のリスク要因は、主に以下の通りです。
- 年齢: 慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎は年齢問わず発症しますが、特に40代から50代で発症率が上がります。
- 女性: 男性よりも女性のほうが病気の発症率が高いですが、これが女性のほうが病気の症状を示す傾向が高いためであるかはわかっていません。
- ストレス: 精神的ストレスおよび身体的ストレスが誘因となって起こる場合があります。
- 遺伝:家族の成員の二人以上が慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎を患っている例があり、現在病気の遺伝性について研究がなされています。終糸システム®でも、異常な緊張終糸によって起こる脊髄牽引(当研究所では終糸病と定義)が先天性疾患を引き起こし、これは遺伝する可能性が高いと考えています。
合併症
主な慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎の合併症は以下の通りです。
- 抑うつ: 激しい疲労感と全身の疲れ、慢性疼痛などの他の症状も加わり、抑うつ状態を引き起こす可能性があります。
- 社会的孤立: 体調不良や慢性疼痛によって普通の生活を送ることが困難になり、社会から孤立してしまう傾向が高くなります。
- 生活の質の低下: 病気が進行するのに従って、生活の質の低下を招くおそれがあります。
治療法
現在のところ、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎の根本的な治療法はなく、痛みの緩和を目的に治療が行われています。
– 認知行動療法
-段階的運動療法
-規則正しい生活やリラクゼーション、質のよい睡眠を取る
-睡眠療法
-痛みに対する治療
-バランスの取れた食事
当研究所のロヨ医師が発表した博士論文によって、脊髄の末端にある終糸が全神経系を下に引っ張っている(=脊髄牽引)ために、複数の病気が起こっていることがわかり、1993年から外科治療によって終糸を切断し病気の原因を取り除くことができる、終糸切断手術という新しい治療法が生み出されました。当研究所で行われている終糸切断手術は、身体に負担の少ない手術であり、手術適用可能とわかり次第、病気の進行を阻止するために早期治療を提案しています。
マンティア医師(Mantia)などが2015年に発表した医学論文において、理学療法実施の前に当研究所独自の治療計画「終糸システム®」適用で終糸切断手術を受けることが、線維筋痛症患者にとって有益であることが証明されました(終糸切断手術実施前に、脊髄牽引が確認され終糸病と診断されることが前提)。
この研究結果が、中枢性過敏症候群の原因究明につながるかはまだわかっていませんが、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎患者の中で、異常な脊髄牽引が見つかっている例があるため、終糸病の徴候を確認するために必要な検査を受け、薬物治療ではなく外科治療が適用できるように提案しております。
終糸システム®適用での終糸切断手術
メリット
- 終糸が短いまたは緊張状態にあることで生じる脊髄牽引を取り除くことができる。
- 身体への負担が少ない低侵襲治療のため、手術時間は約45分、短期入院、局所麻酔、術後の制限なし。集中治療室(ICU)への入院なし。輸血なし。
- 後遺症および死亡率は0%。
- 症状の改善と終糸病に関連する病気の進行を阻止することができる。
終糸切断手術の成果
バルセロナキアリ奇形&脊髄空洞症&脊柱側弯症研究所の独自の治療計画、終糸システム®を適用して終糸切断手術を行い、現在までに1500名以上の終糸病および神経頭蓋脊柱症候群の患者さんが治療を受けられました。手術によって病気の進行を止め、神経系にかかる牽引を取り除くことに成功し、術後の患者さんを対象に行った満足度調査では高い評価を得ています。
終糸システム®を適用して終糸切断手術を受けた後、理学療法を実施した線維筋痛症患者と、理学療法だけを受けた線維筋痛症患者を比較したところ、外科治療を受けた線維筋痛症患者のほうに、痛みの軽減や生活の質の向上など、顕著な改善が見られました。
治療を受けられた患者さんの中には、終糸病(および/または)線維筋痛症の病名のほか、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎と診断された方が複数いらっしゃいます。
参考文献
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